パオ・チョニン・ドルジ監督作品『ブータン 山の教室』を観る

久しぶりに映画を観た。この一年、どうしても意欲が湧かず観たいなぁと思っても映画はスルーしてきた。美術館は動けるので昨年から少しずつ観るようになっていたのだが、固定される映画は行く気にならなかった。でもこの作品の情報が入ってくると、いてもたってもいられず仕事帰りの午後、神保町の

www.iwanami-hall.com

に向かう。コロナ禍にあっても、やはり欲する人はいるようで、そこそこ混んでいた。
ダメ教師のウゲンはヒマラヤの麓の僻地ルナナに季節限定の教師として派遣される。鉄道も自動車道も無い、徒歩で行かなければならない土地だ。幕営し苦労の末、やっと村に着くと、村中をあげての大歓迎だ。しかし、学校の実情を見て、ウゲンは自分には出来ないと村長たちに伝える。みんなガッカリするのは当然だが、村長はなんと嫌なモノはしょうが無いと受け入れる。驚いた。仏教の教えに忠実なのであろう。
しかし、そんなダメ教師を変えるのはやはりいつも子供たちだ。輝く目。ノートも無いのに一生懸命聞き漏らす無いとする姿勢。学ぶ意欲に満ち満ちている。地元の子供たちに出てもらっているとのことだが、彼らはなんと皮肉なことに映画を観たことが無いのだ。なぜなら電気が無いから。素晴らしい演技を見せる子供たち。ただこれらは演じているのは無く、本当に学びたいと思っているそんな姿勢を撮っているのだろう。本当に幸せな2時間弱だった。

bhutanclassroom.com

アニメ『映像研には手を出すな!』考察(覚書)

NHKで放映されていたアニメ

wikiwiki.jp

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アニメ『映像研には手を出すな!』

(以下、「映像研」)の魅力に取り憑かれ、全12回を録画・鑑賞したのみならず大童澄瞳氏の原作単行本5巻も完読するほどハマってしまった。やはりテーマに即したTVアニメ版のできは出色である。アニメ4回で単行本1冊分の内容で、それぞれ1本のアニメ作品を「映像研」(浅草みどり・水崎ツバメ・金森さやか)の面々は作り上げていく構成になっている。以下はアニメと原作との違いを考察(ただ記)したモノに過ぎない。詳しくは

https://wikiwiki.jp/eizouken/作中元ネタ

を参照のこと。

1.アニメ版のシークエンスは原作通りでは無く、大胆に前後させている。例として、第1回の冒頭シーンの幼い頃のエピソードは、原作1巻第6話からのモノである。他にも重要な登場人物の百目鬼氏(音響部)の登場がアニメ版では早いが、これについては後述。
2.宮崎駿作品『未来少年コナン』がアニメ版では「残され島のコナン」となっている。
3.顧問の藤本先生は出演がアニメ版では目立たない(詳しくは後述)。ただ、生徒会の「予算審議委員会」のチラシを持って部室にブラッと来るのはアニメ版のオリジナル。
4.風車のアニメ作りに没頭し、大雨の中、濡れながら三人が駅に向かうシーンがあるが、原作では学校(理科室?)に泊まらされる。そもそも嵐のシーンは先生も入れて4人。
5.部室の○に映のマークは、原作ではいつの間にか付いているが、アニメ版ではロゴが動くシーンとかを妄想する。アニメ3回では、アニメスタジオのメイキング編が挟み込まれ、三船敏郎の『用心棒』?が使われている。
6.アニメ4回は「予算審議委員会」での作品上映となるが、原作では表しきれない強烈な映像力で場を圧倒する。壁や床に現れる光線や戦車の薬莢、最後に戦車自体の登場シーンはアニメのオリジナル。旋律のデビューを飾る「映像研」メンバーの最強の世界。

7.アニメ5~8回は学園祭に向けての話となるが、ロボット研究会からの製作依頼が原作では生徒会経由となっている。
8.アニメ6回に音響部・百目鬼パーカーが登場する。これは原作3巻の17話(正確にはその前から出てはいる)の内容なので大幅に繰り上げ出演だが、SEの必要性からアニメ版では早まったのだろう。旧音響部にガサ入れを行うのも原作では生徒会に仕事をもらいに行って割り当てられたモノで、「映像研」3人で行っているのに、アニメ版では水崎氏はいない。
9.美術部との打ち合わせ後に「ロボアニメを辞めよう」と浅草氏が言い出す点が原作とは異なる。
10.アニメ7回の冒頭、水崎氏の思い出シーン(お祖母ちゃんとのエピソード・ダンスの思い出)は原作にはない。ロボ研メンバーが声優をやるシーンもない。
11.アニメ8回の大芝浜祭は、ほとんどオリジナル。
①水崎氏の箸の持ち方
②学園祭で校門前のクラブ勧誘
③空調管理部とのやりとり
④ロボ研メンバーの段ボール姿~アピール~段ボールロボに対する生徒会の取り締まり
百目鬼氏によるSEの調整
⑥何よりもアニメ作品の「生アテレコ」
→前作よりも圧倒的破壊的な映像力で「映像研」の仲間たち

12.原作本3巻では文化祭の決算を顧問の藤本先生が行い、「遊べ、若人よ」の名言は職員室で宣う。藤本先生が部室前の廃車の中で「部活顧問はブラック」と言いながらゲームをしていて、「映像研」に寄り添っているシーンはアニメ11回。
13.アニメ9回の冒頭では音響部の家賃収入に関する生徒会の査問から始まる。アニメ版では、生徒会が敵対勢力としての扱いが強い。
14.アニメ版では、コメットAに出品する下りは商店会の担々麺屋の加島さんとの接点から始まる。これに伴い、寂れた不思議な地下商店街やフルーツ担々麺!などのディテールが描かれる。そこで新作は『芝浜UFO大戦』となるのだが、これも原作では「雑居UFO大戦争」となっている。
15.親戚の雑貨屋さんでチビ森氏(少女時代の金森氏)が働くシーンは概ね一緒だが、江戸時代から続く酒屋さんが落ちぶれて雑貨屋さんになってしまったというヒストリーはアニメ版のオリジナル。
16.アニメ10回では音楽を「パアトショウジ」というネットの知り合いに作曲を依頼している。
17.声優オーディションの話は原作には無い。
18.外部との金銭の授受を問題視した学校当局との話し合いは、原作ではほぼ教頭メインなのがアニメ版では異なる。最も異なるのが、顧問の藤本先生が全く発言せずゲームをやっている点。
19.小ネタとしては、宮崎駿風浅草氏の出演や対岸の旧発電所の時計の文字盤が漢数字であったり、授業中の居眠りシーンなどが見られる。
20.アニメ11回での美術部との打ち合わせは無い。写本筆写研究部との打ち合わせのシーンでの生徒会の襲撃は原作通りだが、「ドアの修理代」を上乗せしている。
21.浅草氏の探検と教頭が花壇にコスモスを植えているエピソードはアニメのオリジナル。
22.「映像研」部室に教頭の張り紙があるシーンは原作には無い(美術部の久保さんの心配そうな姿も)。アニメ版では風邪引きの金森氏を見舞うのはこの後に来る。そこでSNSで芝浜高校「映像研」の取り組みと町おこしに関して、問い合わせなどの電話が殺到するシーンもアニメだけ。
23.依頼していた音楽(byパアトショウジ)の曲がイメージに合わず混乱するシーンとこのトラブルを適切に処理する金森氏の姿はアニメのオリジナル。ある素材で作品の構成を組み替えることにした「映像研」メンバー。外部業者をキャンセルしたため、写本筆写研究部に乱入する金森氏の姿が後に出てくる。
24.コメットAの会場で見られる人々
①フルーツ担々麺屋の加島さん
②書道?のブースにいる生徒会の生徒会長と書記のさかき・ソワンデ
③ゲームに熱中する顧問の藤本先生
④歴史を説明するロボ研小野
⑤柱の陰から(巨人の星か!)見守る教頭
25.アニメDVDをそれぞれに楽しむ人々
①車の中で見る顧問の藤本先生
②部室で見守る美術部の面々
③担々麺屋の店先で見る加島さん
④自宅の居間で鑑賞する教頭

原作コミックを実に巧みにアニメ作品に昇華している。素晴らしい。原作にたびたび登場するタヌキは、次回作のアニメ「たぬきのエルドラド」に結実することを切に願っている。「映像研」よ、永遠なれ。

昨年・今年の展覧会

忙しくて記せなかった記事を二つ。

昨年、10~11月にかけて東博で開かれていた新天皇即位記念の「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」に前後期とも行ってきた。前期の方が圧倒的な存在感で、「国家珍宝帳」や「螺鈿紫檀五絃琵琶」を鑑賞できた。比較的空いていたので、じっくり見られたがこれら2点だけは流石にゲキ混みだった。後期は「漆胡瓶」や「平螺鈿八角鏡」が見どころであった。こちらはスゴイ混みようで、入館するのに1時間待ちだった。正倉院の御物だけではなく、法隆寺など周辺の名品も見ることが出来たのだが、正直言って水増し感が否めなかった。ただ国宝と正倉院御物を並べて見ると圧倒的な完成度に「国宝よりも上の品々があるとは」と感嘆せざるを得ない。本来なら毎年開かれる奈良国立博物館正倉院展に行きたいのだが。。。

本年1月、国立西洋美術館で開かれている「ハプスブルク展」は受験のために仕事が休みになったのでやっと見てきた。こちらも西欧の名家の品々なので圧倒的な物量とこんなに飾るスペースがあったことに感心する。やはり本人たちの肖像画を飾る感じがリアルには把握できなかった。

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